委員長対談 バリューマネジメント株式会社 代表取締役 他力野 淳 × 一般社団法人神戸青年会議所 委員長

2025年度は神戸青年会議所の委員長にもフォーカスし、各委員会での取り組みや想いを伝えます。また本年度のスローガン「Captivate ~世界に誇れる神戸へ~」にもとづき対談を通して「人の心を惹きつける」要素とは何かを考えます。

 今回は、歴史的建築物の再生や地域文化資源の活用を通じて、まちの価値を未来へつなぐ取り組みを行うバリューマネジメント株式会社 代表取締役 他力野 淳様をお迎えします。
ホテルや式場、文化施設の再生を手がける同社は、「残すことで、まちを活かす」という理念のもと、全国各地で地域と人を結ぶ事業を展開されています。

本対談では、神戸青年会議所の4名の委員長が、組織運営、人材育成、財務のあり方、そしてまちづくりの未来について語り合いました。
単年度制でありながら、学びをつなぎ想いを継承する。その対話の中から、神戸のまちが持つ力と、次代を担うリーダーの姿を探ります。

 

Special Guests

他力野 淳(たりきの じゅん)

バリューマネジメント株式会社 代表取締役
Entrepreneurs' Organization Japan Region会長
2005年バリューマネジメント株式会社を設立し、代表取締役に就任。歴史的建造物や遊休施設を再生し、ホテル・旅館・結婚式場などの運営、観光まちづくりを通じて「施設再生から地域を活性化し、日本固有の文化を紡ぐ」を掲げている。リクルート在籍時には結婚情報誌「ゼクシィ」関西版の立ち上げに携わったとされる。現在は内閣官房「歴史的資源を活用した観光まちづくりユニット」メンバー、EO OSAKA元会長なども務め、官民連携による地域資源活用・観光振興の第一人者として活動している。

 


バリューマネジメント株式会社 代表取締役 他力野 淳(以下:他力野)
マーケティング戦略委員会 委員長 河合 孝治(以下:河合)
会員拡大特別委員会 委員長 塩谷 健太郎(以下:塩谷)
財務規則委員会 委員長 前薗 慎一(以下:前薗)
渉外委員会 委員長 上原 天馬(以下:上原)


多様な人材をまとめる「信頼と敬意」の組織づくり

  

 

塩谷:私たちの委員会は、神戸青年会議所に新たに入会するメンバーを迎え入れる役割を担っています。
いわば「人材を組織に引き入れる委員会」です。年齢も業種もバックグラウンドも異なる人たちが集う中で、既存メンバーとどう調和を図りながら、一つの方向に向かって進んでいくのか。これは常に悩ましいテーマです。入会して間もないメンバーにとっては、環境に慣れることだけでも大きな挑戦ですし、受け入れる側としても、どのように信頼関係を築けばよいのか試行錯誤しています。

他力野様は、多様な価値観を持つ人々をまとめていくうえで、どんなことを大切にされていますか

 

他力野:組織において最も大切なのは「信頼」と「敬意」です。
EO(Entrepreneurs' Organization)でも“Trust and Respect”を活動の根幹に据えています。多様なメンバーが集まる組織では、命令や上下関係ではなく、信頼関係が秩序を生み出します。そのためには、立場に関係なくフラットな関係性“Peer to Peer(ピアトゥピア)”の文化を築くことが重要です。

リーダーは上に立つ存在ではなく、仲間として共に学び、導く存在であるべきだと思っています。

 

塩谷:青年会議所もまさに多様な価値観や立場の人が集まる組織です。
私自身、委員長という立場にありますが、年上のメンバーに支えられることも多く、経験の浅いメンバーから学ぶことも少なくありません。
立場や年齢ではなく同じ目的を共有する仲間として関係を築くことが、信頼の第一歩だと改めて感じます。

 

他力野:私たちは入会や採用の際、「価値観の一致」を特に重視しています。EOでは、入会時に組織が大切にしている価値観に共感できるかどうかを丁寧に確認します。合意できない場合は無理に入らない。

価値観の一致こそが健全な組織運営の礎です。私の会社でも同様で、どれほど優秀な人でもカルチャーフィットしなければ長く続かない。
逆に価値観さえ合えば、スキルや経験は後からいくらでも伸ばすことができると思います。

 

塩谷:新入会員を迎える立場として、まず“どんな価値観のもとに活動しているのか”を明確に伝えることの重要性を改めて感じます。
入会後に価値観が変化していく人も多いですが、入口の段階から共感を得る仕組みづくりが信頼関係の出発点だと思います。

 

他力野:EOでは会員の継続率を「信頼の証」としてKPIにしています。95%という高い継続率は、満足度とエンゲージメントの高さを示しています。
離脱が多い時期や理由を分析し、入会初期から文化を体感できる環境を整えることが大切です。
会社でも同じで、早い段階で一体感を得られる仕組みが、長く続く組織の鍵になります。

 

塩谷:私たちも、新入会員が“この組織にいる意味”を実感できるよう、活動初期の関わり方を見直し、理念の共有を軸にした受け入れ体制をつくっていきたいと思います。

 

理由あるルールが信頼を生む

 

前薗:私の委員会では、神戸青年会議所の財務を担当しています。
事業を進める中で常に感じるのが、「財務リテラシーをどう浸透させるか」という課題です。組織のお金の使い方や意識をどう根付かせるべきかを日々考えています。

 

他力野:とても重要なテーマですね。私は、財務リテラシーの出発点は「そのお金が誰のものか」という意識にあると思います。
団体の資金は、会員一人ひとりの会費や労力から成り立っています。つまり「仲間のお金」です。その意識があれば、無駄遣いは自然と減り、使う目的が明確になります。

大切なのは「何に使うか」ではなく、「なぜ使うのか」。どんな価値を生み出すのかを常に問い直すことが、健全な財務運営につながります。

 

前薗:使う理由が明確でなければ、どれだけ正しい支出でも納得は得られないですね。
私たちの会議でも、反対意見が出るときは概ね「理由の説明が足りていない」時です。

お金の使い方も、単なる数字ではなく、会員一人ひとりが共感できるストーリーとして伝えることが大切だと感じます。

 

他力野:まさにその通りです。EOでも支出を行う際は、全員にプレゼンをして意見を募ります。

信頼を得る財務とは、透明性と対話によって成り立ちます。

また、財務だけでなくルールづくりにおいても同じことが言えます。ルールを押し付けるのではなく、「なぜそのルールが必要なのか」という背景を共有することで、納得が生まれます。

 

前薗:青年会議所も単年度制の組織ですが、他力野さんのお話を聞いて、“ルールは残らなくても理念は残せる”という視点を持つことができました。
理念を共通の旗として掲げ、手法は毎年進化させていく。

それこそが、単年度制の強みであり、継続する組織の形なのだと感じます。

 

 

相手と未来への敬意

 

上原:渉外委員会では、理事長や副理事長のアテンドを担当しています。
来賓対応など外部の方と接する機会が多く、神戸JCの「顔」としての振る舞いが求められます。
アテンドの現場は見られる機会も多く、学びの場でもあると感じています。

そこでお伺いしたいのですが、他力野さんが考える「アテンドの意識」や「おもてなしの学び」とはどのようなものでしょうか。

 

他力野:神戸JCのように対外対応を重視している組織は本当に素晴らしいと思います。
多くの団体は外部対応を軽視しがちですが、私はそれこそが“文化”だと考えています。私たちの会社では、歴史的建築物を舞台にした施設で国内外のVIPを迎える機会が多くあります。

その際、最も大切にしているのは「相手の時間への敬意」です。1秒の遅れも信頼を損なうことがあります。
罰やルールではなく、「相手の時間を奪わない」という意識を文化として根付かせています。

 

上原:職務においては時間管理が最も難しく、同時に最も大切だと感じます。
スケジュールの進行や調整のひとつひとつに、その人や組織の姿勢が表れますね。神戸JCとしての印象を左右する場面も多いからこそ、時間への敬意をメンバー全員が意識することが、信頼づくりの第一歩になると感じます。

 

他力野:アテンドの所作、立ち居振る舞い、言葉遣いの一つひとつに「組織の品格」が表れます。
アテンドは任務ではなく、自己成長の訓練でもあります。JCで身についた気遣いや礼節は、ビジネスの場でも必ず活きる。

見せるためではなく“思いやりから生まれる行動”が、人と組織の信頼を築くのだと思います。

 

 

上原:アテンドの経験を通じて、相手の立場に立って考える姿勢が自然と身につくと感じています。
神戸JCのおもてなしの文化を次の世代にも引き継ぎ、対応力や所作を「学びの財産」として残していきたいです。

それともう1点、私自身とてもお聞きしたいことがあります。

他力野さんの事業の原点には、阪神淡路大震災の経験があると伺いました。
震災が今のビジネスや活動の方向性にどんな影響を与えたのでしょうか。

 

他力野:震災は、私の人生観を根本から変えました。
多くの命や建物が失われ、「失ったものは戻らない」という現実を神戸で痛感しました。その経験が、今の「次の世代に遺す」という使命につながっています。

私たちの会社は、登録有形文化財などの歴史的建築物を再生しています。
古い建物を残すのは、単なる保存ではなく“記憶をつなぐこと”。

震災で失ったものが教えてくれたのは、“壊れる前に守る”という姿勢です。

 

上原:私も父が震災で工場を失い、そこから事業を立て直す姿を見て育ちました。
だからこそ「継ぐ」という意識を強く持っていますが、同時に時代に合わせて形を変えていく責任も感じます。

伝統を守るだけではなく、今の時代に合った形で未来へ残すことが、次の世代にできる恩返しだと思っています。

 

他力野:まさに「伝統と革新の融合」ですね。震災を知る世代だからこそ、その記憶と精神を次に伝える使命がある。

神戸は“失われたものを再生してきた街”です。

その再生の精神を体現しているのが、神戸JCの皆さんだと思います。おもてなしも継承も、すべては“相手と未来への敬意”から始まることが私たちに共通する信念ですね。

 

 

単年度制の中にある継続性

 

塩谷:神戸青年会議所は単年度制で運営していますが、その仕組みの中で、その年に作成したルールや仕組みが翌年に引き継がれないことがあります。継続と刷新のバランスは、どう考えるべきでしょうか。

他力野:私は、単年度制には大きな価値があると思います。人が毎年変わるからこそ、常に“新しい風”が吹く。
組織にとってこれほど健全な仕組みはありません。
一方で、短期の中にも長期の軸を持つことが大切です。会社でいえば経営理念、団体でいえば存在意義。

これだけは変えずに、やり方やプロセスは自由に変えていい。つまり「登る山は共通だが、登り方は自由」という考え方です。

 

前薗:年度ごとに目標を持ちながら、全体の方向性をつなげていくということですね。

 

他力野:そうです。前年度を“否定して新しくする”のではなく、“良いものを残し、改善しながら進化させる”ことが重要です。

政治では前任者を否定して支持を得る構造がありますが、地域団体はそうではない。

まちづくりや人づくりは、長い時間をかけて積み上げるもの。年度が変わっても、活動の志が続いていく構造を意識してほしいですね。

 

上原:単年度制の中でどう引き継ぐかは常に課題です。資料を残すだけではなく、どうすれば思いや意図まで伝えられるかが大切だと感じています。

 

他力野:その通りです。引き継ぎの本質は“資料”ではなく“意図”です。
なぜこの事業を行ったのか、何を残したいのか。その背景を次のリーダーに伝えることで、自分なりの解釈で進化させることができます。

私の会社でも「目的は変えない・手法は変えていい」という原則を大切にしています。そうすると前年度の良い部分が自然と受け継がれ、新しい発想が生まれます。

私は「良いものは必ず残る」と信じています。形が変わっても、本質的に価値あるものは自然と引き継がれる。

単年度制は“1年で終わる仕組み”ではなく“1年で次につなぐ仕組み”なんです。その意識を全員が持つことで、神戸JCはより強い組織になるはずです。

 

上原:非常に心に響く言葉です。私たちも、1年を「終わらせる活動」ではなく、「未来へとつなぐ活動」として取り組んでいきたいと思います。

 

他力野:素晴らしいと思います。神戸青年会議所の皆さんのように、地域を想い、行動する人たちがいることこそ、まちの力そのものです。

単年度ごとの挑戦を積み重ねて、神戸の未来を一緒に描いていきましょう。

 

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