宮﨑大輔理事長 (以下I):本日は第2 回神戸オータムフェスティバルのトークセッションへのご出演、またワークショップにご参画いただき、誠にありがとうございます。
同じ神戸を愛する者として、お話を聞かせていただきたいと思います。
森山未來氏(以下M)、久保田沙耶氏 以下(K):よろしくお願いいたします。
1 それぞれの“きっかけ”について
I:神戸市ご出身の森山さんが、地元のまちで活動するきっかけや熱意の源は何でしょうか?
M:前々からアーティスト達は東京のスピード感や効率性に限界を感じ、東京から離れて国内外に移住する方が多いと感じていました。僕もそのうちの一人で僕自身、アーティスト・イン・レジデンスを使って、アジアやヨーロッパなどでクリエーションを行ってきたなかで、どこか別の場所に移ってインスピレーションを得ながら活動できる拠点のようなものを持てたらいいなと考え始め、最初は海外で考えていました。しかし、コロナで1回ストップして、必然的に国内を見回すことになり、そんな中で神戸を改めて見た時に、ポテンシャルを高く感じる部分がたくさんありました。
その頃「醸す」っていう言葉が自分の界隈から聞こえてくるようになりました。何かが停滞しているように見えても、その中では何かが熟成されているのかもしれない。そんな思いもあり、神戸で色々活動してみようと思ったんです。
I:きっかけはやはり地元だからっていうのと、町としての魅力的な部分が一致したから神戸にしたのですか?
M:もちろん地元なので、知らない人よりは神戸のことを知ってはいるとは思います。しかし、高校まで無自覚的に住んでいた時の印象と、今の神戸に対する印象って全然違うんですよね。その時は灯台下暗しみたいなもので、神戸がどういう場所で、どういう文化があって、どういう関係性で人が動いているのか、そんなにアンテナを張るみたいな感覚はなかったんです。だけど、今はすごく客観的な目線で、神戸はどうなのだろうって捉えることができています。元々神戸で育ったのでやはり山と海があるところが好きです。そして、神戸は流動性が高い場所であるとも思います。都市の考え方って円形の構造をもつじゃないですか。京都は地形的にそうなっているし、東京も大阪もあえて循環する形を意図的に作っていますよね?地理的に神戸は東西にしか抜けない代わりに、流通も文化の交流も含めて流動性が高い。そこで定着するものは定着するし、しないものはしないけれども、結局その流動性が自分の性に合うっていうのが改めてこの土地を選んだ理由です。それは、地元が好きだからっていう観点だけではやっぱり見つけられないとも感じました。
I:久保田さんはどのようなきっかけでアーティストや現代芸術家の道を歩むことになったのでしょうか?
K:私は茨城県の土浦市出身で、通学路には廃寺がよくあり、その周りには縄文土器が落ちていました。これらの縄文土器は地元の農民たちにとってはそれほど価値がないもので、道に転がっていることがよくありました。それを拾って手に取り、その模様や質感を感じながら歩いているうちに、考古学者になりたいと思うようになりました。だけど、博物館に行ってみると、その縄文土器とかがガラス越しに陳列され、触れることができない状態で保管されていることが多かったです。これが古いものや歴史あるものが保存される方法なのかと疑問を感じました。私は触れないとわからないことがたくさんあると考え、この違和感から現代美術の道へ進むことを決意しました。同時に絵も好きで、現代美術は非常に幅広い領域であることを知っていたので、古さや価値についての疑問を探求しながら、自分自身を成長させていく道を歩みたいと考えました。
I:幼少期の思い出や感性は、後の人生や職業選択に大きな影響を与えることがありますね。自分や他の経営者たちも、幼少期から起業への興味を抱いていた人が多いようでそういったきっかけが影響しているかもしれません。
2 神戸の魅力について
M:逆に2人にとって神戸の魅力って何ですか?
I:私も神戸で生まれて、神戸で育ち、神戸から出たことがありませんでした。祖父が創業者で、会社を約70年間運営していました。祖父の話を聞くと、神戸の昔の栄華や魅力に憧れを感じました。当時東京や大阪にも憧れがあったのですが、神戸のコンパクトな都市での人柄や心地よさが、私を神戸にとどまらせる要因でした。
また、私が神戸で活動する青年会議所に参加したことも、神戸への愛着を強めた瞬間でした。実際、今日のイベントに出演されたときに、森山さんが風をキーワードに話をされていましたが、その風が持つ心地よい雰囲気が、私にとっての神戸の魅力の一部だと感じています。
M:去年、神戸経済観光局主催のアートイベント「KOBE Re:Public Art Project」に関わり、私はキュレーターの役割を担当していました。その一環でSNSを通じて、神戸の魅力を発信することを招聘アーティストにお願いしていました。どんな要素や場所が面白いか、「ひと、もの、こと、ばしょ」なんでもSNSで共有し、発信してもらっていました。
自分も一緒に発信活動をして、神戸の魅力を自分の視点から伝えようとしましたが、ある時そのリプライとして「神戸どこがおもろいん?」といった、おそらく地元の人しか言わないようなネガティブなコメントが現れました。
以前から考えていたことでもありましたが、神戸の魅力って一体何なのか。一言で説明できないながら、具体的にどこが特徴的なのか。例えばメリケンパークや異人館といったものがありますが、それでは中央区だけということになるのでしょうか?
I:もちろん他にもありますね。
M:そう、神戸は中央区だけでなく、他にも8つの区が存在し、それぞれが異なる特色を持っています。メリケンパークや異人館などがある中央区は、外からイメージしやすい神戸としての特徴を持っていますが、他の地域も独自の魅力がたくさんあります。下町、職人文化、海、山、阪神間モダニズム、多様な要素がコンパクトな神戸の中に詰まっています。
そのため、神戸の魅力を1 つに絞りきれず、多くの要素が共存しているため、わかりやすい魅力として打ち出しづらいし、地元の人も認識しきれない。
I:なるほど、コンパクトな都市に多くの要素が詰まっているため、神戸の魅力は多岐にわたり、一言で表現しきれないということですね。
M:はい、その通りです。要素が豊富で活発な都であることが神戸の魅力でありながら、それを言葉にすることが難しい瞬間もあると感じています。
3 メッセージ
M:震災を経て、再整備や再開発がまた活発になり始めている現在、神戸という場所をどう認識して、何をイノベーション、リノベーションしていくのか。何を壊して作るのかっていうことに対しての視座は、やっぱりちゃんと意識して持つべきで、なんでもかんでも新しくすればいいわけではなく、その提案として例えばアーティストレジデンスというものは存在しています。やってくるそのアーティストが、神戸というものを本当に全く知らない状態で、土地だけじゃなく人やいろんな流れを見渡した時に、「あっ、これが神戸の面白さなんだ」みたいなことを、傍からそういう側面が見えたとしてそれを受けて、神戸の人も「あ、そうなん!?神戸は、そこが面白いの」みたいな反応になったりする。別にそういった交流だけが全てではないですけれども、この神戸という場所で生きているからこそできることだったり、見ている視点みたいなことに対して、どのような風通しをつくり、より豊かな視点を獲得していくのか。そういった開かれた考え方は、ポイントとしては置いておくべきではないかなと思います。
K:私自身、宮城県の亘理町というところの津波災害地域の人たちと話す機会があり、被災で流された人たちのこととかを聞きにくいと思っていたんですけど、実際は笑いながらや泣きながら慎まずにざっくばらんに話すんですよね。その時に人は慎まないことで救われることもあるんだと思いました。
そういうことがアートの中でも多々あり、例えば紙の上だったら線をはみ出してよかったり、紙の上にある線は自由に書いていいっていうのと同じように、ワークショップの中で人間と環境との関わり方っていうのをもう1回自分の視点で考え直してみようかなって思いました。そのきっかけを作るのは、アートに違いないと思っています。そういった面で、よくアートって言ったら彫刻だとか絵画だとかに注目されがちですけども、そのファイナライズされた形っていうのが全てではなくて、その人生の時代時代を切り取ったものをたまたま可視化できるものが作品であって、そのバックグラウンドにあるその人の思想だとか考え方だとか、そういったことが1番大切なことだと思います。ぜひその見えない部分を生かしていくって
いうところをやっていくのには神戸はすごく似合っていると思いました。